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~ 記憶を呼び覚ます音楽の想起力~
音楽療法ドキュメンタ― 『パーソナル・ソング』 

この記事はAlmama編集部平山愛子が執筆しました。

ヘッドフォンから流れる音楽。忘れていた娘の名前も、昔の記憶も音楽に乗ってよみがえってくる。しだいに音にあわせて体が動き、目を大きく見開いた時には、若いころの思い出があふれ出す。
2014年にアメリカで制作された、音楽による認知症の人たちへのアプローチを描いたドキュメンタリー映画『パーソナル・ソング』 。世界各国の映画祭で好評をえて、日本でも劇場公開後大きな反響を呼んだ作品があります。

注目される音楽の力

近年、医療や介護の現場で積極的に取り入れ始められている音楽療法。1900年代半ばに欧米で普及し始め、その後日本でも組織作りが進み、1995年には『全日本音楽療法連盟』が発足、2001年『日本音楽療法学会』(理事長:日野原重明氏)に名称変更後、現在までに2000名を超える学会認定の音楽療法士が誕生しています。

聴くことによる効果と、歌い演奏することによる効果。音楽療法ではこの2つのアプローチによって、心のケアやリハビリ、コミュニケーション能力の改善など、患者のQOL(生活の質)の向上を目指します。

映画『パーソナル・ソング』は、音楽を聴くことによって変化する認知症患者の姿を3年に渡り取材。ソーシャルワーカーや家族、医師や介護士、ミュージシャンなどあらゆる人たちのインタビューを交えながら、高齢化社会への大きなメッセージを伝えています。

  パーソナル・ソング
好きな音楽がもたらす効果

音楽を聴いてもらう上での出発点となるのが、その人のパーソナル・ソング=好きな曲、思い入れのある曲を見つけること。生まれた年代や職業、本人や家族との会話を参考に曲を選び、ヘッドフォンを付けてもらいます。

音楽が流れ始めてまず変わるのが、体の動きや表情。音にあわせリズムを取ったり、目を閉じて聞き入ったり、微笑みを浮かべ一緒に口ずさんだり。硬かった表情がほぐれ、音に自然に反応していきます。

そして次に変わるのが会話。忘れていた過去の“記憶”だけでなく、閉ざされていた“感情”が生き生きと表れ始めます。多くの人が、音楽を聴く前よりも言葉が増え、昔の思い出や自分の気持ちを語り出します。

『レナードの朝』原作者のオリバー・サックス医師は、音楽が脳に与える影響について「音楽に反応する脳の領域はとても広く、認知症により混乱してしまっている思考や言語の部分とは違う、運動や感情の領域と結びつくために、認知症によるダメージが比較的少ない」と解説しています。
 

よみがえって音楽が
「愛を感じさせてくれる」

会話の変化で共通して見られるのは、患者一人ひとりの“心”が開かれていく姿です。本作品では、音楽が感情に訴える力、そして音楽を聴くことが刺激となり、外の世界とのつながりが生まれることで、眠っていた本来の姿が呼び覚まされ、記憶や感情によい変化が生まれる可能性を伝えています。

印象的なのは、周囲への気遣いや感謝の言葉を口にする人が多くなることです。曲にあわせ歌っていた男性が「音楽とは何かな?」という問いかけに対し返した「愛を感じさせてくれる」という言葉。日ごろ誰とも話さず表情も乏しかった男性が、音楽を聴いた後つぶやいた「ここにいるみんなが大好きだ」という言葉。誰もが心の中に持っている愛情や思い遣りがよみがえり、他者とのつながりを回復していく力を感じさせます。 


高齢化社会への問いかけ

映画『パーソナル・ソング』ではまた、世界中で今後さらに進む高齢化社会への問題提起もなされています。暮らしや経済の発展とともに変化した家族のありかたや“老い”の捉えかた、医療や介護、施設が抱える課題など、日本においても大きな意味を持つテーマばかりです。

その中で音楽療法が果たす役割を力強く伝える本作品は、生きる喜びを取り戻し、家族やスタッフと心を通わせる認知症患者の姿から、大きな希望を受け取ることができます。

『パーソナル・ソング(原題:Alive Inside)』2014年アメリカ
監督・脚本・製作:マイケル・ロサト=ベネット
音楽:イタール・シュール
出演:ダン・コーエン、オリバー・サックス、
ボビー・マクファーリン 他